株式会社ビム・アーキテクツは、BIM(ビム)と呼ばれる3Dモデルを活用し、従来のやり方とは全く違う建築の形を構築する一級建築士事務所です。BIMによって効率的に業務を展開するだけでなく、人と建築が創造的な社会をつくることを目指し、コンサルティングやアプリケーション開発など、多岐に渡り事業を展開しています。
今回は、東京に本社を置きながら、2022年7月に熊本県天草市にサテライトオフィスを開設した株式会社ビム・アーキテクツの代表取締役・山際 東様にお話を伺いました。
株式会社ビム・アーキテクツ
代表取締役 山際 東 様
人材育成の課題を解決するための地方進出
地方進出を検討されたきっかけを教えていただけますか?
BIMを使った業務では、情報を入力する作業が多いのですが、社内で対応しきれていなかったので、地方で人材を確保したいという思いが芽生えました。
東京の方が人材は多い印象ですが、実際の状況は違うのでしょうか?
実は東京でいくら採用しても、途中で辞めてしまうことが多く、なおかつ最低賃金も高いので、歯痒い思いをしていたんです。建築関連の知識がある人材は多いですが、私たちのやっていることは従来の建築のやり方とは全く違うので、その方法に馴染めない人も同時に多くいました。
新しい業務を受け入れて柔軟に適応できる人は、現状で建築における固定観念がない人かもしれないと思いました。ただそのような人材を0から教育していくには時間がかかるため、地方でコストを抑えつつ、大卒や主婦の方々を対象に挑戦したいと考えたのがきっかけです。
天草進出の決め手となった「人の良さ」
進出先を選定する際に重要視されたポイントはありますか?
基礎的な学力がある四大卒の人材がいること、離職率が低いこと、採用単価が低いこと。この3点です。これらを考慮して、元々は札幌を候補に挙げていたのですが、ふと、みらいさんから天草の視察についてご連絡をいただいていたことを思い出しました。しかし、既にメールの返信期限は過ぎてしまっていて、しかもその日は土曜日。さすがにもう難しいだろうと諦め、「また機会があればよろしくお願いします」と返信しました。するとすぐに、責任者の大矢さんから電話がかかってきて、奇跡的に天草視察を手配していただけることになったんです。僕にとって天草は縁もゆかりもない場所だったのですが、あの一本の電話のおかげで全てが動き出したので、本当に感謝しています。
天草はその条件に当てはまったということでしょうか?
いや、実は当てはまっていないんですよ。天草には四年制大学がなく、正直どうしようか…と迷いました。でも、視察で高校を訪問した際に進路担当の先生から、「学力が高くても様々な要因で進学しない生徒も少なからずいる」と伺いました。冷静に考えてみると、「まだ伸びしろのある人材がたくさんいるということなのでは?」とポジティブな考えに変わりました。。
その上で、みらいさんにアテンドしていただいた視察で印象深かったのは、天草の方々の「人の良さ」でした。それぞれの課題と真摯に向き合いながら挑戦を続ける地元企業の方々をたくさんご紹介いただけたことも、とてもありがたかったです。将来的に天草で一緒に建築プロジェクトをやりたい、と思いました。弊社の仕事は常にコンピューターに向かいがちなのですが、僕としてはやっぱり人との繋がりってすごく大事にしたい部分なので、みらいさんの視察を通して知ることができた天草の居心地の良さは、最終的に大きな決め手となりました。
視察ツアーの後、再び天草に行かれたのでしょうか?
はい。その“伸びしろ”を確認するために、今度は天草市役所職員の方のアテンドのもと、二度目の視察に行きました。地元高校に通う学生さんや、現地の設計事務所、工務店の方にも改めて話を伺う中で、特に驚いたのは、現地の企業が直面している課題でした。地方では、東京よりもずっと担い手不足がひっ迫していたんです。5年後には多くの企業が廃業してしまいそうな勢いで、これはまずいなと感じました。BIMを使える人が増えれば、少ない人数で多くのことができるので、地域課題を解決するという面でも弊社が貢献できることがあるのではないかと考えるようになりました。
その上で、行政の方の支援の手厚さにも胸を打たれました。進出するまでの一過性のサポートではなく、その後も継続して関係を築いていける人たちだと確信し、天草にサテライトオフィスを開くことを決めました。
地方の新規採用や教育を成功に導く仕掛け
一年半経ってみて、天草に進出してよかったと思う点はありますか?
よかったと思うところはやはり人の部分で、仕事を続けてもらえるスタッフも多くて助かっています。現在8名の新規スタッフに働いてもらっていますが、思った以上に順調に採用を進めることができたと思います。
8名も採用するのは簡単なことではない気がしますが、どのように募集したのですか?
僕らも普通に求人を始めたからといって、いきなり人が集まるとは思いませんでした。何かしら仕掛けが必要だと思い、「一度無料でBIMのソフトを使ってみませんか?」というカジュアルな体験会をやってみたところ、それがとてもうまく機能したんです。今いるメンバーのほとんどはその体験会をきっかけに採用できた方々です。
逆に大変だと感じる点があれば教えてください。
教育の面には課題を感じています。建築の知識が全くない状態では、やはり教育をする側も受ける側も難しさがあり、思ったよりも時間がかかっています。今後改善していきたいポイントの一つですね。一方で、天草では全員出社体制とすることで、社内で相談して課題解決できるような仕組みを作るだけでなく、本社スタッフに質問して解決した内容を、メンバー同士で共有し合える環境づくりや教育を行っています。主婦の方が一番多いのですが、子育て世代がお互いに教え合ったり助け合ったりしながら、柔軟に働ける環境が整っています。
天草をBIMの聖地に
今後の展望をお聞かせいただけますか?
1期生として雇用した8名がある程度仕事ができるようになってきたら、天草にもう一つ拠点を作り、2期生を育成していきたいですね。
それから近い将来、天草でBIMのイベントを大掛かりにやりたいと企んでいます。単にBIMを使ったオンラインコンペをやるだけではなくて、前段階として、企業や学生がBIMについて学ベるサマーキャンプのような場を提供したいです。BIMに興味をもつ人が増えれば、僕らの事務所だけでは足りなくなるので、そのうち他の企業も天草に進出してくれれば嬉しいし、そうなれば他の企業と連携して何かやるという展開も期待できると思います。
地方に進出して、自分たちが今までずっと取り組んできたBIMという技術に、もう一度鮮度をもたせることができています。今後も天草の人たちとBIMの可能性を広げながら、地方の雇用創出や社会課題の解決に向けて尽力していきます。