総面積の8割が森林地帯という山々に囲まれた秋田県・仙北市。田沢湖や乳頭温泉郷など、豊かな観光資源と農業によって発展してきた同市は、高齢化率が4割以上と、全国的に見ても高い水準で少子高齢化が進み、人口減少が課題となっている地域でもあります。
その地に2022年3月、湘南でソフトウェア開発などを手掛ける株式会社リベンリが、株式会社リベンリ秋田を設立しました。
時代の先端を走るIT企業が、人口減少や産業創出を課題とする地域に進出した理由とは?株式会社リベンリ秋田の代表取締役・櫻井 誠様にお話を伺いました。
株式会社リベンリ秋田
代表取締役 櫻井 誠様
新たな需要を求めて仙北市へ
なぜ地方進出を検討されたのでしょうか?
きっかけは、みらいさんから、「地方進出のためのモニターツアーに参加しませんか?」という内容のメールが届いたことです。当時、本社リベンリのある湘南を含めた関東には、IT企業の競合が多く、案件獲得も人材確保も非常に難しいと感じていました。
仙北市を調べてみたところ、人口減少という課題とともに、IT企業がほぼないということもわかりました。首都圏ではIT企業が山ほどあるので埋もれちゃうんですけど、ないところに行くことで需要を掘り起こしやすいかなと。
視察ツアーに参加してみて、仙北市の印象はいかがでしたか?
ツアー中は市長と副市長も同席され、人口減少について非常に危機感を抱いておられました。また行政の方々がとてもウェルカムな雰囲気で、企業誘致に対しても強い熱意を感じました。「我々もなんとかできないか」って思わされましたね。
また仙北市は豪雪地帯ということで、どちらの季節も体験できるよう夏と冬の2回ツアーを企画されていたのが印象的でした。ツアーに参加した2022年9月、宿泊していたホテルの周辺を早朝に散歩したんですよ。その時の少しひんやりとした空気と、空の高さにすごく感動したのを今でも覚えています。都会だと空なんて見えないですよね(笑)。
現地に行かなければ、仕事も採用も進まない
視察ツアー参加から仙北市進出までの道のりはいかがでしたか?
東京から新幹線で一本で行けますし、 ツアー後は進出を前提に半年間ほど現地に通いました。その中で、県内で事業をされている方に「現地に住まないと採用は進まん」と言ってもらえたことが、現地に法人を立ち上げることになった大きなきっかけでしたね。
実際に現地に会社を設立されてよかったことは?
「首都圏の会社の支店です」と言っても、地元の方に信頼していただくのはなかなか難しいです。「我々は秋田の会社で、ここに住んでいます」と言えることが本当に大事なんだと感じました。商談についても、オンラインで用は足りるんですけど、「直接話したい」と言われた時、すぐに会いに行ける距離にいるのは大きなアドバンテージですね。やっぱり“現地に行かないと仕事にも採用にもつながらない”と思います。
櫻井様も実際に仙北市に移住されたそうですね?
人間関係で一度も悩んだことがないくらい、秋田の皆さんはいい人ばかりです。よく「来てくれてありがとう」と言ってもらうのですが、温かく迎え入れてくれたことが本当にうれしくて。「せっかくお金を落とすなら現地に落としたい」と思って住民票も移しました。
地域ならではの課題を、IT技術で解決
最終的に仙北市に進出された 決め手は何ですか?
先ほども少し触れましたが、一番の理由は、仙北市にはITの会社がなく「需要があるのに供給がないこと」です。我々がその第1号となることにチャンスと意義があると考え、進出を決めました。
実際に進出された時の感想はいかがでしたか?
市と進出協定を結び「仙北市誘致企業第1号」に認定されました。会社設立の時には、地元の新聞社やテレビ局から取材していただき、スタートダッシュとしては成功したんじゃないかと思いますね。
現在リベンリ秋田ではどのような事業を展開されていますか?
昨今全国的にも問題になっている熊による人への被害を受け、昨年「アニマルまもるくん」というアプリをリリースしました。秋田県内の熊などの出没状況をユーザーがアプリに登録し、シェアしていくというものです。現在はそういった事例をもとに、秋田県や仙北市などの行政の仕事を受託したり、地元企業のシステム開発の仕事を行ったりしています。
会社の潮目を変えてくれた人達への恩返し
仙北市に進出するきっかけとなった、みらいの存在はいかがですか?
みらいさんにはとても感謝をしています。視察ツアーで市長・副市長を紹介していただき、現在も何かあったら相談いただける関係性が続いて。それは我々にとって大きな財産になっていると思います。
また、振り返ると会社として潮目が変わったのは、仙北市に進出したタイミングだったと思うんですよね。秋田に来てグループ全体で売り上げが1.5倍になり、採用も湘南では全然来なかったのに、一気に進んで。それもみらいさんからのメールを読まなければ、またツアーに行かなかったらこうはなっていなかったなと。ツアーさまさまです(笑)。
みらいとは今も事業パートナーとしてお付き合いいただいていますね。
仙北市進出のきっかけをくれたみらいさんに私ができることは、自分たちの経験を伝えること。今年度はみらいさんと一緒に、仙北市視察ツアーの企画・運営を行ったり、東京での秋田県のイベントに登壇したりしました。今後も視察にいらっしゃる企業があると思うので「私たちと一緒に何かやりましょう!」と、ウェルカムな雰囲気で皆さんをお迎えしたいなと思っています。
地域に根づき、地域に返していける企業でありたい
最後に今後の展望を教えてください 。
まずはしっかりと地元企業のDX化の一助となれるよう、会社を育てていきたいと思っています。あとは人口流出改善に少しでも貢献できるよう、採用も進めていきたいですね。 そして県内だけでなく、県外、もしくは海外からも仕事を受託し、外貨を稼ぐ会社になり、秋田県や仙北市に還元できる会社になっていきたいと思っています。
IT企業が希少な山間の地域で、新たな挑戦をするリベンリ秋田。同社が見据える未来には、自社の発展だけでなく、仙北市の企業・行政がより良い発展をとげるよう貢献したいという熱い想いを感じました。