東京に本社を構え、企業のWebサイトや映像の制作などを手掛ける株式会社スケッチ・オブ・デザイン。“思い描いたビジネスをカタチにするデザイン”というコンセプトのもと、コンサルティングや新規事業創発など、狭義のデザインの枠を超えたビジネス視点から顧客の課題を解決する会社です。同社は2022年8月に熊本市と立地協定を結び、翌月9月に支店「熊本工作室」を設立しました。縁もゆかりもない熊本の地に進出を決めた理由とは?代表取締役・ディレクターの勝又 啓太様に、これまでのお話を伺いました。
株式会社スケッチ・オブ・デザイン
代表取締役・ディレクター 勝又 啓太様
百聞は一見に如かず。視察ツアーで熊本の街に一目惚れ
地方進出のきっかけを教えてください。
みらいさんから会社の問い合わせ窓口に、熊本市への地方進出に関する案内メールが届いたのがきっかけです。メールに記載してあったアンケートに興味本位で答えてみました。そうすると熊本市の視察ツアーに参加できる資格が得られるという話に飛びついたんです。コロナ禍を経験し、デザインをはじめとしたクリエイティブな仕事でもリモートでできることがわかり、「地方の優秀な方を採用して、遠隔で働いてもらう選択肢もあるのかな?」とちょうど考えていた頃でもあったので、人材採用の可能性を探る目的を主に、ツアーに参加してみようと思いました。
視察ツアーの感想はいかがでしたか?
まさに“百聞は一見に如かず”でしたね。正直視察ツアーには半ば旅行気分で参加するつもりだったんで、「拠点を作るまではないだろう」と思っていました(笑)。ですが実際に熊本の街を訪れたらもう一目惚れして……。帰りの飛行機では「どうしたら熊本拠点を作る必然性がある事業で採算が合うか」と、ビジネスモデルを考えるまで気持ちが固まっていましたね。
熊本市にどのような魅力を感じたのですか?
特に、中心街の凝縮されたパワーに惹きつけられました。僕は音楽や洋服をはじめとしたカルチャー(文化)が好きなのですが、熊本は昔からファッショナブルなスポットを誇っていたことも知り、その独自のセンスやカルチャーに惚れました。その頃の考えとしては、今では数億円の資金調達をしている共同創業したスタートアップを抜けたり、コロナ禍を経たりと、いろいろ転機を迎えた状態で40代になったので、「今後はとにかく自分が楽しめる、大好きなカルチャーに関することに主軸を置いていこう」と思っていたところだったのです。
変革が求められる地場企業に、新しい風を
熊本ではどのような事業をなさっていますか?
地元企業の新規事業創発のコンサルティングをメインに行っています。東京でもデザインはビジネスを具現化するための問題解決の手段だと考え、マーケティングやブランディングなどを行っていたのですが、熊本ではそれを前面に押し出した事業展開をしています。
僕は宮城県仙台市出身で、2011年の東日本大震災の際、たまたま帰省していた実家で被災しました。それが人生の転機になるくらい大きな出来事だったわけですが、熊本の場合、2016年に起きた熊本地震の復興さなかに、新型コロナウィルスが猛威を振るい、立て続けにピンチが起きたわけですよね。そんな状況下の熊本では、「これまでの常識が通用しない!」と良い意味で地元企業の代替わり(事業継承)が進み、僕と同世代の2代目・3代目の経営者が活躍していると聞いたんです。よく「地方は閉鎖的で、外の人間を疎外」なんて誤解がされますが、そのような変革が求められる状況の中では、新規事業に関する知恵や知見が欲しいという声が多くあり、伴走するかたちでニーズに応えていけるのではとも思いました。
熊本に来てからの印象に残るプロジェクトはありますか?
駐車場開発を営む地元企業・日本パスート株式会社の新規事業創発支援として、日本パスート本社の1階に「駕町(かごまち)SA」という「歩いて入るサービスエリア」をオープンしました。ここでは、知り合いになった地元レストラン・UNIの梶原大吾シェフに考案してもらった冷凍食品や、地元の名店の看板メニューを取り揃えた冷凍自販機を設置したり、熊本市をはじめとした機関とのコラボで観光案内スペースを設けたり、ポップアップイベントを開催したりしています。それから、これまでデータ化が難しかった学生の駐車場利用の実態をアンケート調査し、その結果をもとに全国でも類を見ない「駐車場の学割」キャンペーンを開催するなど、日本パスートの本業である駐車場関連でも、それまでの常識を覆すような新たな取り組みを行っています。
また、個人的な道楽ですが、昨年の11月には地元のレストランに東京からミシュラン二つ星のフレンチレストランでスーシェフを勤めた滝本和眞氏・一つ星のイタリアンレストランのソムリエの松本時宙氏を招き、熊本の食材や器を使用したワインペアリングのディナーイベント「熊本豊作」を企画・開催しました。路面電車を貸し切ってあつあつのおでん、地元のウインナーとソーセージ、熱燗とビールを楽しむイベント「おでん・オーデン・俺、市電」なんかも主催しましたね。
「火の国・熊本」の情熱×縁を駆動力に
スピード感をもって次々にお仕事をされる秘訣は?
これは僕がどうこうというよりも、面白がって話にのってくれた、「わさもん」「もっこす」というキーワードで表される熊本の方々のパワーや想いの強さが原動力だと思います。都市圏と違い、経営において個人の裁量が強い熊本では、ステークホルダーが一箇所に集まりやすいということもあって、提案から実行までのスピードが速いのが魅力ですね。
たった1年半でたくさんの人脈も作られた印象ですが?
東京との二拠点生活の中、せっかく熊本にいる期間は、余すことなく動きたいという気持ちが強いので、いろいろな場所や人に会うようにしています。熊本はコンパクトな分、人とのつながりが本当に密ですね。先の食のイベントも、地元のアパレルショップの方々がそれぞれ、料理人や生産者をつなげてくれたり、器の作家さんを紹介してくれたり、まさに人との縁がつながったからこそ成功できたイベントでした。
進出前後の出会いが、今を作る
みらいや行政のサポートはいかがでしたか?
市役所の方々には、進出前から進出後まで本当に色々と支援をしていただいていますし、今一緒にお仕事をしている地元の企業とご縁ができたのも、みらいさんのおかげです。 いわゆるオフィスビルではなく、繁華街・アーケード内に入居することを決めたのも、視察ツアーでご紹介いただいた、当ビルのオーナーとの出会いがきっかけでした。現在はこのエリアの組合にも入って、「新市街の勝又さん」という肩書きを得ました。新市街アーケードの商店街のWebサイトのリニューアルにも携わらせてもらっているんですが、なんというか、「商店街の人」になれたのがよかったなと思います。
熊本での出会いを点から線に、そして面に
熊本での今後の事業展望をお聞かせください 。
進出してから少しずつ人脈や関わる事業が増えてきて、“点”がたくさんできました。それらがつながってひとつの線、さらには面になり始めている実感があります。これらの関わるプロジェクトをたくさんの地元の方々に知ってもらえるよう、ブランディングや周知にも力を入れていきたいと思っています。最終的にはそれが大きなムーブメントとなって、商店街や地域全体への恩返し・貢献へとつながっていけばと考えています。
進出からわずか1年半でさまざまな事業を手掛けるスケッチ・オブ・デザイン。「異物として刺激を与えられたら」と勝又様が話す通り、自らが“チェンジドライバー”となって熊本に変革をもたらす姿は、まさに地方にとって必要な人財と言えるでしょう。これからも熊本の文化を楽しみ、まちをデザインしていく同社から目が離せません。