紙や繊維などの工場や、石油化学コンビナートが立地する工業都市として発展してきた山口県・岩国市。2013年には米軍基地の滑走路を利用するという全国的にも珍しい「岩国錦帯橋空港」が誕生。東京からの直行便も就航し、アクセスの良さも魅力のひとつです。
2023年10月、ゲームを主軸としたマルチメディアコンテンツの開発を行う株式会社ゼロディブが、岩国市と進出協定を結び、2024年4月には自社オフィスを開設されました。まさにこれから新たな地で事業を本格展開する、同社・代表取締役の原神 敬幸様に、進出までのお話やこれからの展望を伺いました。
株式会社ゼロディブ
代表取締役 原神 敬幸様
地方の魅力を知るからこそ、新たな拠点へ
進出のきっかけを教えてください。
みらいさんから届いた地方進出に関する案内メールがきっかけですね。メールに記載してあった「岩国」、「視察ツアー」、「広島県と隣接している」というキーワードが気になり、「少し興味があります」とお返事したことから話が始まりました。
当社は本社のある東京以外に、東北の福島市と仙台市にもスタジオと呼んでいる拠点があります。都内は人材の確保が難しく、育成しても数年後には転職してしまうという状況もありますが、福島や仙台ではみなさん長く働いていただいていて。そういった点が頭にあり、地方への進出に抵抗感はなかったですね。
岩国市の印象はいかがでしたか?
視察ツアー参加前に、オンラインで市役所の方から岩国市についてのプレゼンをしてもらいました。まず大きな魅力に感じたのは立地面ですね。羽田空港から直行便が出ていて、さらに空港が中心部に近い点がよかったです。そして「製造業が中心で頑張っている一方で、“ITに課題がある”」と、弱点を伝えていただいたのが好印象でした。プレゼンは、基本的に強みを伝えられることが多いですが、その強いところに私たちが入り込む余地はなかなかなくて。「弱いところにこそ、私たちが何か力になれるかもしれない」と考え、さらに興味が湧きましたね。ゲーム会社だから言うわけではないのですが、ビジネスの“攻略法”みたいな感じでしょうか (笑)。
視察ツアーで印象に残ったことはありますか?
すでに地方進出されている企業を見学させていただいたことです。「こういうスタッフがいるんですよ!」と、現地の方が進出企業で活躍する姿を目の前で見たり、進出の際の補助金のお話などを聞いたりできて、検討する上でとてもありがたい機会でした。
戦略的にビジネスチャンスを考える
岩国市進出を決定されるまでの過程はいかがでしたか?
気持ちとしてはとても前向きでしたが、「実際、岩国で何ができるのだろう」と、ツアー参加後にもう一度自分たちで訪問しました。ツアーで紹介されていないところも歩いてみたり、地元の方がやっている飲食店に行って話を聞いたりと、情報収集を重ねました。「IT業をはじめ、地元で自分に合う仕事が少ないため、広島に出てしまう人が多い」といった、地元の方々のリアルな声が印象的でしたね。
岩国市のどのようなところに可能性を感じましたか?
岩国は米軍基地があることから「米国に近いまち」である一方で、IT分野では米国と比べて伸びしろが大きいなと感じました。例えば、今も現金決済が主流なので、これからもっとキャッシュレス決済が浸透するとよいなといったことですね。私は現在、専門学校で非常勤講師をしたり、子供たちにプログラミングを教えたりしているので、その得意分野を活かして、岩国市にITの技術や担い手が増えるよう力になれたらと感じました。
他にも候補地がある中、岩国市進出の最終的な決定打は?
先程もお話した通り、岩国空港は羽田からの直行便があり、空港から中心部まで近いこと。またある程度の人口規模がある一方で、IT企業はまだ少なく、人材確保やビジネスチャンスが見込めること。正直、どれが欠けても進出はしなかったと思いますね。
あとは、関西出身なので、個人的には西に行けば行くほどパワフルだなと感じていて。いつか西日本にも拠点が欲しいと考えていました。東京、東北、そして岩国と……、これでようやくパズルのピースが埋まったような気がします。
ITの課題を地域で解決できるよう、力になりたい
現地採用に動かれていますが、その理由は?
東京や東北のオフィスで全く違う地域のものを開発することもあるのですが、正直知らない土地だと、イメージが湧かないこともあります。この経験から私は、地域で困っていることがあれば、その地に暮らす地元のみなさんで解決できる状態が理想的だと思っています。その上で必要になる技術や経験を、私たちが一緒に積み上げていけたらなと考えています。現地採用をすることで、岩国の方々が中心となって地元のIT課題を解決できるようになっていけば理想的ですね。
採用の進捗状況はいかがですか?
現在すでに、岩国スタジオの室長を含めて3名採用しています。また、ありがたいことにかなりの応募がきていて、新たな就職先の選択肢として興味をもっていただけているのかなと感じましたね。今後、会社説明会を開いて、もっと私たちのことを知ってもらい、選考に進んでいきたいです。
行政の窓口ができた状態で、地方進出ができる
みらいのサポートはいかがでしたか?
みらいさんはやりとりがスムーズで、プレゼンや視察ツアーの段取りがしっかりしている印象でした。自分たちだけでは入りづらいところにも案内してくれましたし、いろいろな方と繋いでもらうことができました。そのおかげで、私たちの声を聞いてもらえる環境ができたと感じています。地方進出を検討する企業にとって、「行政とどうやって繋がるか」というハードルがあると思うのですが、みらいさんのサポートによって行政との距離が近い状態でスタートできたのも、非常にやりやすかったですね。進出決定後に重要になってくる助成金のことや、「こんな現地企業はないですか?」という相談も、直接行政の方にお尋ねできたので、とても安心感がありました。
未来のクリエイターを岩国から!
最後に今後の展望を教えてください 。
まずは岩国で何かしらの開発ができればと思っています。そして岩国のIT分野の発展に向けて、他の企業とともに切磋琢磨しながら頑張っていきたいですね。
また私自身のもう一つの顔である講師と言う立場から、プログラミング教育なども行っていきたいです。当社の取り組みをきっかけに、「山口・岩国から世界へ羽ばたく未来のクリエイター」が生まれてくれたら嬉しいですね。
「地域の課題・弱点にこそ、自分たちにできることがある」。今後の岩国市におけるIT産業の振興に向け、その一翼を担っていこうとする同社の強い意志を感じました。そして近い将来、岩国市から世界へ羽ばたくクリエイターが輩出される日を楽しみにしています。